矢部ある記(6)関西山荘厳寺

懐良親王と荘厳寺

(写真)荘厳寺と十二里石(写真右下)

 日向神ダムの湖水が切れる村体育館の東向かい、山のふもと所野という地に関西山荘厳寺という寺があります。建武の新政を成された後醍醐天皇の第15皇子、懐良親王ゆかりの寺です。懐良親王は、南北朝時代となった1336年吉野の父君の命を受け、わずか8歳の征西将軍として、五條頼元たちと下向されました。京都の北朝・足利幕府と戦いながら、25年かかって九州を制覇し、太宰府に南朝の征西府を開かれました。京都をとりもどそうと東上を計画、この時留守居役として6歳の良成親王が西下され、矢部村に大きな歴史を刻まれたことは周知のとおりです。


 無念にも東上は失敗し、懐良親王は幕府が派遣した智将今川了俊に敗れ、太宰府から高良山を越えて八女へ退かれました。荘厳寺縁起(現代文に訳)によると、

「傷を負われ、本国上妻郡矢部庄高屋城に入られた。そこへ敵軍が襲って来たので侍臣に親王の衣冠を授け、肥後国や豊後国へ逃れられ、侍臣は身代わりとなった。親王は城の西北の山かげに隠れ、のち大淵村月足御基山佛の本に御所を移された。

 荘厳寺の開基は、親王の御子乾寿丸が月足の佛ノ本という地に庵室を建てたことから始まる」と記されています。

 また、荘厳寺14代宗圓氏より「戦いに敗れさせ給える親王は大渕の豪族月足氏の家に入らせられた。その家に滞在中月足氏の女を入れて妃と為し給い、勘(乾)寿丸を挙げさせられた。後勘寿丸は、月足氏の長男某と共に出家され、聖巖寺に入らせられた」との伝えがあり、荘厳寺は黒木町大渕の月足にあったことや、懐良親王の御子との深い関わりが分かります。

 懐良親王は、都の西方九州へ下られたので関西の宮と呼ばれました。寺名「関西山荘厳寺」は、これに由来します。

写真は荘厳寺と十三里石(写真右下)

荘厳寺と矢部村

 大渕村月足佛の本にあった荘厳寺は、もともと最澄が広めた法華経を根本とする天台宗でした。乾寿丸の庵室より90年後、第三代正圓の時、阿弥陀仏により成仏できるとする浄土真宗に改宗しました。浄土真宗の開祖親鸞から八代目で本願寺を設立した蓮如が、九州で人々を教え導いたとき、大変感銘を受けたからということです。この時蓮如上人は「南無阿弥陀仏」の六字名号と「正圓坊宗林」の坊号を授けました。当時の寺名は聖厳寺でした。

  正圓より六代目の智圓の時代、薩摩の島津義久が豊後の大友宗麟を耳川の戦いで破り、九州の優位に立っていました。全国統一を目ざす豊臣秀吉は宗麟の求めに応じ、1587年九州に乗り込んで島津義久を打ち破りました。この時、敗北した島津と秀吉との仲を取り持ったのが智圓で、その功により1592年秀吉から「正圓房の境内南北三間余東西十五間は永代にわたって寺領とし、租税を免じる」という一札と、朝鮮出兵の折肥前名護屋城で使った器具を授かりました。その後京都の興正寺派の支配下に入り、次の代圓宗になった慶長時代、本願寺派の末寺となっています。このため、先の秀吉の一札にて保証されている地ながら、興正寺からの交渉が厳しく、ついに月足を出ることになったのです。

 当時、筑後柳川を治めていたのは道雪より三代目の立花忠茂で、領内の南矢部村に御堂を建てて寄進をしました。こうして所野へと移ったのです。1635年(寛永12)のことで、同時に寺名聖厳寺は荘厳寺と改められました。現在の本堂は1834年に再建、180年を経ています。

荘厳寺の寺宝

 矢部村に移るまでに、寺宝の刀剣・玉・古文書・秀吉より拝領の器具などが、様々な事情で消失しており大変残念です。所野には、荘厳寺はじめ立花家のお茶室、付近には庄屋の屋敷もあり、柳川藩南矢部の宗教的・文化的な中心でした。地元古老は「所野の人たちは、ことあるとき上座に着く習わしがあった」と伝えています。

 数々の激動歴史を越え、立花町辺春の正光寺や黒木町覚法寺預け・久留米市高良山の神官船曳鉄門の研究などを経て、以下の貴重な寺宝が残っています。
一、聖徳太子自作と伝わる阿弥陀如来像
一、太子所持の念珠と独鈷、着衣の一部
一、釈迦の遺骨と寂如上人の添え書
一、源信僧が描いた三尊の絵図
一、天台宗期の御本尊である座像木仏
一、法然上人作の名号石二個
一、明治天皇ご誕生の餅

 前の道路は旧柳川街道で、山門の右下には矢部村教育委員会の説明と「柳川より十三里」という標石が立っています。四月中旬から五月にかけ裏山の美しいシャクナゲに彩られる荘厳寺、華やかな往時が偲ばれます。

矢部村 山口久幸

[参考]関西山荘厳寺縁起(H10)、荘厳寺現住職第16代尚之氏談、矢部村誌(H4)

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