八女あれこれ/番外編(2)

義士・寺坂吉右衛門

忠臣藏の歴史学上の正式な名称は「赤穂事件」です。この事件の赤穂隊の一員として戦った義士・寺坂吉右衛門の墓とされる石塔が八女市豊福・一念寺の裏山にあります(八女市史)。ということで私はざっと10年前、赤穂事件のこぼれ話を本紙に4回連載しました。反響がありました。当時の私の勤め先、八女市横町町家交流館には延べ数十人の赤穂事件研究者の方が来訪されました。そのなかのお一人、福岡市中央区のK病院院長K先生は『私の恩師が発表した著書です』と江下博彦著「七人の吉右衛門」(梓書院)という大著を寄贈されました。著作の話は後述。

義士隊四十七士が江戸本所の吉良上野介邸へ夜襲をかけたのは元禄15年(1702)12月14日(今の暦に直すと15日)の午前4時ごろで、約2時間の戦いで本懐を遂げました。寺坂吉右衛門(36歳)は西部隊第一班で「高田の馬場十八人斬り」で有名な堀部安兵衛(33歳)ら10人とともに裏門を破り、槍をしごいて突入しました(この時の槍というのが一念寺に保管されています)。

吉右衛門は足軽頭だった吉田忠左衛門(62歳)の輩下の足軽(戦時中は第一線兵士となって戦い、平時は門番などを勤めた軽卒)で俸禄は「五両二人扶持(年間約50万円の報酬と一日米一升給付)と低い。江戸学の祖、三田村鳶魚先生の著作によると「吉右衛門は捨て子だった」と書かれています。或る朝、吉田忠左衛門が氏神の八幡宮へ参詣した折、社頭に赤ん坊が捨ててありました。「赤ん坊は泣きもせず、忠左衛門を見てしきりに笑う」とあります。育てたところ立派な青年に成長。身長六尺二寸(約188センチ)色白く人格が優れ力は十人力、弓術と槍術が抜群でした。

以下、著書「七人の吉右衛門」のこと。著者江下博彦先生は福岡市南区で内科医院を開業されていた医師でした。平成元年にご長男が診療されるようになりましたので、それから10年間一人で赤穂事件の取材で全国を回られました。「七人の吉右衛門」によると、寺坂吉右衛門の墓と公表した町村は全国に7か所あるとのことです。先生は平成9年3月ごろ、八女市一念寺にも数回訪ねられました。一念寺の寺坂吉右衛門の墓は供養墓だろうと認定されました。同道された鑑定家(この方も本職は医師)は、同寺に現存する槍は「備前国尾道住正民作」またこれまで鉈とみられていた刃物は「古刀期の筑紫薙刀」と鑑定され、討入りのとき寺坂吉右衛門が使用したか否かは結論されていません。歴史学上の寺坂吉右衛門とその妻の墓は、東京麻布の曹渓寺にあります。

なお、江下先生は平成14年11月15日に逝去されました。84歳でした。

四十六士か?

「七人の吉右衛門」の著者江下先生は赤穂事件の本場、兵庫県赤穂市で騒ぎとなった「四十六士か四十七士か」を問題とされています。

赤穂事件の研究書として高く評価されている「元禄快挙禄」は明治41年ごろ福岡市の新聞社、九州日報(昭和17年福岡日日新聞と合併し西日本新聞が生まれた)の社長兼主筆だった福本日南先生が新聞に2年間連載された読み物で、現在は岩波文庫で発行されています。福本先生は同書で吉右衛門の性格などを褒められたあと、「彼は討入り終了後、大石内蔵助から特命を命ぜられ一党の列を離れた。特命とは大石内蔵助の預り金の使途報告書を浅野内匠頭の奥方瑤泉院殿にお届けすることだった」と記述されています。

赤穂市での四十六士か四十七士かの論争は大石の特命が問題となったのです。平成元年3月に発行された「赤穂市史第一巻」の文中に「寺坂吉右衛門は逃亡者である」との記載がありました。執筆者は赤穂市が市史編さんを委嘱した神戸大学名誉教授八木哲浩先生で、先生はさらに文中で「ついに寺坂吉右衛門がはたして四十七人目の義士であるかどうかを考えねばならぬ時期が来た」と記述されているとのこと。吉右衛門が大石の命令で隊列から離れたのを「命惜しさの逃亡」とみているのです。これに対して吉右衛門は義士だと大反論をあげている代表は赤穂市在住で赤穂義士顕彰会理事長飯尾精氏です。今も論争は続いていると聞きました。

かつて作家の司馬遼太郎さんは、何かの本にこう書いていました。

「大石は討入り後、義士隊には幕府から切腹の沙汰があるであろう、と覚悟していた。当時の切腹という刑罰は上級武士のみに適用されるもので、身分が百姓である吉右衛門は切腹はできない。だから大石は討入り終了直後に特命を作り吉右衛門を離脱させたのだろう」と。

私は司馬説を尊重しています。何がどうであろうと、低い身分で討入りに参加した吉右衛門に対する敬慕の気は益々強くなっています。12月14日、一念寺で執行される義士祭にお参りしたいと思っています。

(八女ふるさと塾名誉塾長/松田久彦)

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