八女あれこれ26 「わが師、わが友」その九

(イラスト)八女あれこれ26

「八女の産物」は薬

去る月、福岡市の婦人団体から手工芸品の素材の薬用について質問がありました。
漆は八女地方では仏壇や提灯製作のときの塗料や接着剤として利用されていますが、漆が薬用として使われることを私は「兵隊時代」に教わりました。
私は第二次世界大戦中に2年間ばかり一兵士(伍長)として服務しました。久留米の歩兵部隊所属から昭和19年夏、福岡城跡にあった部隊へ移り、ここで新しい部隊編成があり同士150名と共に当時の糸島郡村(現二丈町) 一貴山 ( いきさん 国民学校の仮兵舎へ入りました。150名は「国家」という権力によって職業、学歴、家柄などの差別を排し一網打尽に全国各地から集められた中年と若年の男子集団でした。毛色の変わった人たちがいました。当時の大相撲前頭だった龍王山関や、映画俳優で戦後は「悪役」で名をあげた安倍徹さんも仲間でした。そのほか簡単な器械で豆腐を作る技術を持った兵士や竹材で色々の器具を作る兵士、浪花節の上手な兵など、兵士一人ひとりが持つ種々の特技はすべて決戦体制下では「戦力」でした。Aという中年の二等兵(最下級の兵士)は、漆を薬用として使う知恵を持っていました。彼は中部地方の漆器産地からの召集兵で、生漆液を小瓶に私物として持っていました。自分のあかぎれの手入れ用としてでした。A二等兵は楽天的な男で色気のある話術の名人でもありました。男性ばかりの軍隊内では色気話の名手は救いの神のような存在でした。(閑話休題)
以下は 不寝番 ( ふしんばん (兵の寝ずの番)からの報告でした。深夜、若い初年兵が胃痛で倒れました。衛生兵が手当てしましたが、当時は充分な薬がなく 匙 (さじ)を投げました。その時、A二等兵が生漆一滴を水いっぱいの大食器(めし椀)にたらして初年兵に飲ませたら翌朝元気になったといいます。
私たちは戦時中に兵舎(国民学校)の裏山で牛一頭を飼っていました。近いうち、米軍が糸島海岸へ上陸して乱戦となった場合、その時の応急の食糧とするための牛でした。ある日、この牛が原因不明の病で体力が弱ったことがあります。この時は生漆数滴をまぐさに混ぜて食べさせ牛の体力を回復させました。
胃痛や牛の手当てなど戦後に「漆の本」を読み科学的に間違いではないことが分かりました。「漆の一滴」は牛だけでなく人の強精剤にもなることも知りました。また家庭の木製の重箱や椀に漆を塗料として使っているのは、漆がもつ殺菌力と防腐力を生かすためだと分かりました。

老化を防ぐ秘訣

竹工品は八女地方の特産品です。立花町の孟宗竹は数百年前(年代不明)鹿児島から上辺春の古刹、正光寺に移植されたのがはじまりです。(立花町史)「孟宗」の名の由来は約1800年前、中国の孟宗少年が病の母に滋養のためタケノコを食べさせようと雪中に掘った、という故事からきています。とにかく、竹は1日に1メートルも伸びる速いスピードの生長力を持っています。この力をみて古代人は霊力が宿ると思ったことでしょう。「竹酢」「竹炭」はいまや家庭の常備品です。「竹の根、葉は精力剤となり、ハチクの内皮を煎じて飲めば肺病に効く」(沖浦和光著「竹の民俗誌」約半世紀前の話です。広川町新代の久留米絣森山虎雄工房でのこと、藍ガメから藍汁をコップで飲む人を見かけました。初代虎雄先生に尋ねると『近くに住む胃癌の方です』とのことでした。(現在は薬事法によって禁止)日本薬用植物辞典には「青藍を粉末とし服用すれば食道癌、胃癌に効果あり」とありました。藍の香気は虫や蛇が嫌います。藍染めのユカタを着ておれば蚊から刺されない、とは絣産地の常識です。紺のモンペ、 脚絆 (きゃはん)や 法被 (はっぴ)もしかりです。前出辞典には「藍実は強壮剤、藍葉は 肋膜炎 ( ろくまくえん)、月経不順、便秘に効く」とあり、我が家では老化防止のため服用しています。
八女の手すき和紙作りのときの添加物、トロロアオイ(糊料)は紙のひきとこしを強くしますが一方では「胃腸炎、咽頭炎に効く薬草」です。(広辞苑)工房で職人さんが 簀 (す)を掃除する時に使っている「おなもみ」(立花町ではきもんぬすど、市内柳瀬ではもぐら、久留米方面では犬ころころの方言あり)の実は漢方で発汗剤、頭痛薬になっています。
数百年前は健康保険はなく、医療制度も不備でした。先人たちは自分が作り出す産物や植物で自分の健康を守ってきたのです。八女茶もしかりです。茶から出る抽出物は細胞の突然変異傷害(癌の発生)を抑制する力があることはすでに学界で証明されています。
私は毎日、煎茶を急須で十杯飲み、絣のシャツを着、竹のはしや味噌こしを用いています。老兵ですが馬力は衰えません。

(八女ふるさと塾塾長/松田久彦)

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