八女あれこれ20 「わが師、わが友」その三

在郷町と在方町

(写真)福島地区の町並み

福島地区の町並み

ちょっとお堅い話。八女市史に「福島地区の本町筋(矢原、古松、新、京、宮野、紺屋、唐人各町)の町並みは近世初頭は城下町でした。元和元年(1615年)の一国一城令で福島城が破壊され城下町は在郷町へと変化しました」とあります。この場合の「在郷町」とは「江戸時代の農村部に成立した商工業者が集住する地域」(日本史辞典)という意味です。

ところが数年前から八女市教育委員会や八女市商工観光課が配布する公文書(「町並み通信」など)では「在郷町」の字句を使わず、すべて「在方町」としています。「在郷町」と「在方町」にはどんな違いがあるのでしょうか。八女市の伝統的な町並みの保存再生運動を指導され、特に「在方町」の名称使用を提唱されているのは九州大学教授、宮本雅明先生だとききました。去る月、宮本先生へ「在方町の名称を固守される理由は?」の質問状を発しました。先生から丁重な返事がありました。以下お手紙を要約して記します。
「在郷町と在方町は“江戸時代の在方に成立した商工業者の集落”という意味ですが、江戸時代前期を扱う研究者は在町、後期を扱う研究者は在郷町を使うなど研究者によって統一されていませんでした。在郷町には江戸後期に成立発展した町というイメージが強く、江戸時代を通して扱うには都合が悪いので国立史料館の渡辺浩一先生が在方町と呼ぶことを提唱され私(宮本先生)もこれに賛同して使っている次第です。しかし、なかなか浸透しないため混乱させる状況になっています。私は在方町の名称普及のため福島地区と八女郡黒木町では引き続き使っています」

「君、君たり」か?

江戸初期から中期にかけて有馬藩内の治安状況は不安定でした。福島地区の在方町一帯で大火が続いたことはすでに本紙に書きました。久留米の石原家に残る石原家記(元和7年、1621年から約150年間の記録)の宝暦6年(1756年)ごろの記録には「上妻筋(八女地方のこと)付火毎々あり」とたびたびの放火を指摘しています。在方町の大火の場合、火元は「失火」であっても延焼の途中から付火があったのかも知れません。三田村鳶魚著「泥坊づくし」には「盗賊たちは江戸中期ごろから“殺して奪う”方法を捨て“付火して盗む”やり方に手口を変えた」とあります。
江戸中期の有馬藩内の世情は乱れていました。八女郷土史研究会編「八女の郷土史」には「領内は毎年、干ばつなどで不作がつづき領民は餓死寸前、そんななかに役人などの横領、収賄などはもちろん強盗、殺人などが公然と行われた。しかし藩主などは適切な施策をたてなかった」と記述しています。
江戸中期、領内で歴史に残る百姓一揆が3件おこりました。享保13年(1728年)浮羽地方の農民を中心に5,700人が夏物年貢率の引き上げ(1割を3割とした)に反対して決起しました。更に宝暦4年(1754年)には新税(人別銀、八才以上の男女一名につき銀六匁(現在の貨幣価値にすると約13,000円)を分割上納する税)などに反対して全郡の農民10万人が立ち上がりました。そして天保3年(1832年)には浮羽地方の亀王組農民2,000人が大庄屋や村役人の不正を追及して一揆を起こしました。

この頃の久留米藩主は揃って鈍才でした。古賀幸雄先生はその著「久留米藩史覚書」で次のように大名達を批判されています。

「宝暦一揆当時の第七代藩主、頼(機種依存文字)ゆき(よりゆき)公(政権期間55年間)は「数学の殿様」として日本史に名を残しているが藩経営者としては政治家としての理念もなく、鷹狩りなどの遊びに無駄使いの多いリーダーでした。家老が殿様を批難した古文書が残っています。次の第八代藩主頼貴公(政権期間18年間)は道楽大名で珍犬45匹をオランダから取り寄せたり、領中から大男25人を選抜して力士に育てたり自分の趣味だけに税金を気前よく使いました。第九代藩主頼徳公(政権期間32年間)の道楽は鷹狩りとお庭焼、能興行などで藩財政が逼迫し、献金と献米に頼りました。このころ亀王組一揆がありました」
広辞苑に「君、君たり、臣、臣たり」(君が本分を尽くさなければ、臣も又、本分を尽くさない)の諺があります。この頃の有馬藩の政情を捻くっているようなものです。
お隣の立花藩は石高の割に家臣が多く、財政は苦しく貢租も六公四民(収穫の60%が税金)と重税でした(有馬藩は四公六民)。しかし領主も領民も上、下等しく貧困に耐えていましたので、立花時代240年間で百姓一揆は一件も起こりませんでした。日本史上、稀なことです。
私は「歴史」を語っています。そうすると、今日の政治が見えてくるのです。
(日本民芸協団八女支部顧問/松田久彦)

(八女ふるさと塾塾長/松田久彦)

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