矢部ある記(9)修験者の峰入

修験道

(写真)コズミトコの足掛け地蔵

修験といえば山伏が浮かびます。山で修行を積み、力を得てまじないをするのが修験道で、奈良時代の役小角が始祖、山伏は修行者です。

小角は大和・摂津の葛城山に住み、呪力で評判になりました。しかし、ねたみを受け「まじないで人をだます」と大臣藤原氏に言いつけられ、伊豆に流されました。

弟子たちは全国に散り、修験道を広めたのです。一人が豊後に上陸、釈迦岳(山名は後年付いた)から矢部村に向けて下りる途中、師と修行した地そっくりの場所を見つけ、役小角を祀って励みました。「小角を祀った所」は「小角床の足掛け地蔵」として、信仰を集めています。杣の里の手前、足腰に御利益ある地蔵です。

この写真はコズミトコの足掛け地蔵

山伏の峰入

修行のため山に入ることを「峰入」といいます。阿蘇山の西厳殿寺を発した峰入りの山伏一行は、山鹿を抜け鹿北の岩野村に入り、鎮観坊の墓に向かいます。坊は山伏修行の途中で流行病にかかり、厳しい定めのため頭だけ出してこの地に埋められました。照りつける日の下で「水をくれ、水を・・・・・・。」と叫びますが、伝染と苦しみもがく顔を恐れて村人は近づけません。「ここには水がないのか。みな耳が聞こえんのか」と叫び息絶えました。今は古い墓となり、「耳の神様」として信仰を集めているそうです。山伏たちはこの墓に、長く厳しい峰入の安全と修行の成就を祈ったのです。百人を越える一行もあったそうです。

黒木・星野・矢部へ

一行は熊本藩の往来手形を受け、陣床峠から柳川藩へ入ります。途中にあった念力で曲げたという「ねじれ松」は、落雷で枯れ今はありません。一行は、黒木町神露淵村や田代村で、酒・茶の接待を受けました。さらに下って御境川(今の矢部川)に出て本分橋を渡る時、そこまでの案内人が交代しました。岩野村から久留米藩本分村庄屋あて、すでに手紙が届いていました。この行は、多くの人々が支える公的行事でもあったのです。寛政12年(1880)の「阿蘇大峰記録」には「本分で二泊後黒木津江神社にて峰入」、津江神社略記には「本分村へ七日旅宿り後立つ」とあるそうです。

本分村の北方の丘に、この行と関係あるという「大念塚」という地があります。

津江神社から大藤のある祇園宮に参り、高峰の峠に向かいました。椿原天満宮の西奥には「うそん谷」と呼ぶ地があり、そこに建つ宇曽宮で修行をしました。そして、峠を越えた星野谷で村庄屋の出迎えを受けました。星野には、池の山・祓川・室山・滝の脇など修行地が7~8か所あり、5~6日励みました。庄屋の指示で小屋を作った跡が「宿の谷」だそうです。星野から前津江への道に小畑峠があり、国境を北に進めば矢部村から前津江村に抜ける山越え林道で、連絡を受けた矢部村の案内人が待っており、御前岳へと先導しました。

一行は、御前岳山頂や津江方面に下った岩屋に泊まり修行に励みました。岩屋には祈り岩と呼ばれる塔があったようで、石仏は近年も見られたそうです。御前岳から尾根伝いに進むと釈迦岳の山頂に達します。ある修験者一行が釈迦の石像を据えたことが山名の由来です。「元禄五年(1692)申6月7日 那羅延坊蒙辨(阿蘇37坊の一つで、内の牧打越神社の前身)」と刻してあります。明治元年、神仏分離令による仏教排斥運動で釈迦像は消えましたが、大正15年頂上近くの落ち葉の中に見出され、山頂にもどりました。今は、新しい釈迦像と二体で登頂者を迎えています。修験の一行は、釈迦岳から谷に下りて、矢部村竹原に向かいました。矢部村内のどこで修行したか不明ですが、村は阿蘇修験者などの重要な通り道であったことはまちがいありません。先に述べたコズミトコの足掛け地蔵は、修験者にとって大切な修行地だったかもしれません。肥後との国境で案内人が交代、相良村を過ぎ阿蘇山へと行は続きました。1862年の記録によると、35日かけて59里半(238キロ)を歩いたそうで、矢部村だけでも20里半(82キロ)、熊本藩・柳川藩・久留米藩・天領の一部を通る、大変面倒な行でもあったそうです。

南北朝時代良成親王は八代から矢部高屋城を経て、大杣(今の御側)に入られました。遠い昔、忠臣が修験者として山深い安全な地を求め歩いたことでしょう。親王は「父良遠の治療を医に委せず、椿原の僧に頼むべし」と五條頼治公あてに書を出されました。修験者一行の修行地である椿原うそん谷のことかもしれません。

八女津媛神社には樹齢六00年の権現杉があります。南北朝時代に修験者たちが訪れ、植えたとも想像できます。日向神・八女津媛・良成親王、そして修験道のパワーが矢部村でお待ちしています。

(矢部村 山口久幸)

【参考】矢部村誌・星野村誌

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